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BOSSの回想録(15)



<「菊地成孔+BOSS THE NK+OD+小田朋美」④>   最初のアーティスト写真の撮影日がやってきて、我々はまずヘアとメイクを施された。菊地くんが、ウエアである揃いのシャツを白にするか赤にするかを見極めながら、ヘアとメイク兼任の池田さんに早口で説明していた。「OD、<クラフトワーク、マンマシーン>で検索してくれ」「了解じゃないスか、、、、はいこれ」「池田さん、これで」「えーコレやっちゃって良いんですか?」「やっちゃって(笑)」「んでアイシャドーはライトグリーンにして下さい」「えグリーン?」「グローバルグリーンキャンペーンだもん(笑)」 ODは、メイク用具が肌に触れるたび「うっヒャッヒャ!うっヒャッヒャ!」と笑っていた。


 「ダメだ笑うなOD。メイクできないだろ」

 「だってくすぐったいじゃないスか~(笑)。小さい刷毛で顔をくすぐったら、犬でも赤ちゃんでも笑うデス(笑)」

 「確かにな(笑)」

 「こないだミトモさんに初めてやってもらったデス。そしたら自分が笑いすぎてえ(笑)、ミトモさんのパレットをバーン!!ってひっくり返してしまい、大騒ぎになったじゃないスか!うっヒャッヒャ!うっヒャッヒャ!!」

 「笑っていうなお前(笑)」

 「だってくすぐったいから~(笑)」

 「もう寝ろ。そしたら。菊地くーん。携帯式の全身麻酔持ってないか」

 「持ってないよそんなの普通(笑)」

 「じゃあ、、、、導入剤もってるだろ」

 「持ってる(笑)」

 「ほら、これ飲めOD、寝てる間にメイクするから」

 「え?寝ればいいデスか?」

 「ああ」

 「そしたら自分、いつでも寝れるじゃないスか!」「ええ?」


ODは目を閉じ、ものの数秒でイビキをかき始めた。


 「ヤバいなこいつ」

 「こういう人、たまにいるけどな」

 「忍者とかな(笑)」

 「兵隊さんとか(笑)」

 「池田さん、今のうちにやっちゃって下さい」

 「始まった瞬間に起きちゃいませんかねえ?(笑)」


 「やってみましょう」

 「、、、、、あ。大丈夫だ」

 「寝てる」

 「うわー」

 「どんどん行きます!!」


 メイクが完成すると、小田さんが陣中見舞いに来た。池田さんが指差して「あれー!あれえー!あの、ヌードの!」「お久しぶりです(苦笑)」  小田さんの「シャーマン狩リ」のジャケット撮影に関しては、現在のところ、唯一のファイナルスパンクハッピーによる公式文書「共同声明」に詳述されているので参照されたい(長文の見事なフィクションだが、ちゃんと菊地くんと小田さんが書いている)。小田さんの撮影は、カメラマンと菊地くんと3人だけで行われ、池田さんは、バスローブを着た小田さんのメイクとヘアを整えては、スタジオから出て行った。スタジオからは関係者が全員締め出された。

 「いやー。お久しぶりです。お元気そうで、、、、、っていうか!え!あれ?!」

 「あたしじゃないんですよ。この子は(苦笑)」

 「いや、今、自分(注*池田さんの一人称も「自分」)初めて気が付いたんすけど、小田さんにそっくりなんですね、どっかで見たな~って、ずっと思ってたんですけど、、、、小田さんだとは思いませんでした!だってキャラが全然」

 「池田さん、俺たち4人いるのよ(笑)」

 「麻雀できますね!すんません今、自分ベタ言いました(笑)」

 「ソリッドステイトサヴァイヴァーのパロジャケにするか?」

 「いや、とりあえずマンマシーン」

 「そのうちユーリズミックス」

 「こんなアニー・レノックスいねえよ(笑)」

 「いや、わからないぞ。アニー・レノックスとデイブ・スチュアート身長同じだし」

 「175だよ!!デケえよ!ニューウェイヴの中では!!」

 「誰の身長もわかるのか(笑)」

 「わかるね!!いOD起きろ。ミトモさん来たぞミトモさん(笑)」

 「えー、ちょっとそれ止めてください(苦笑)」

 「OD起きろ。ほら」


 「え、、、、、」

 「微動だにしないね」


 「デコピンしてみよう(笑)」


 「、、、、、、、、(パチン)あー痛かった!ODスマン(笑)、、、、あれ、、、、」

 「死んだのかな?」

 「あー、寝かしちゃったんですね」

 「え?」

 「30分は休憩ですね」

 「起きない子?」

 「起きない子です(笑)」

 「いや、30分はまずいよ」

 「いや、あのう、起きるんですけど、夢の中に半分入ってるんですよ。夢遊病?、、、、みたいな感じっていうんですかね?完全に現実に戻るまで凄く長いんですよ(笑)」

 「それ最初に言ってよ小田さん(笑)」

 「だって、今来たから(笑)」

 「なんか、ヘソにスイッチとかないの?それ押すと飛び起きる。みたいなさ(笑)」

 「いやロボットじゃないから(笑)」

 「揺すってもくすぐっても、転がしても耳元で叫んでもダメでしたね」

 「小田さん、転がしたり、耳元で叫んだりしたんだ(笑)」

 「まあ一応(苦笑)」

 「あ!動いた!」


ODは典型的な夢遊病の状態にあった。

 「アグふゃふぇ、、、、鯛焼きまるでふぇふぇ、、プシューがボスをファふぇニュルってなる、、、じゃない、、、、、スきゅあ~、、、フュあ~」

  *   *   *   *   *


 おっし録画だ。と菊地くんが異様にシリアスな表情で、録画を始めた。ODは実に38分間、この調子で話し続け、全身で、非常にゆっくりした、大ぶりの動きーーーそれは一番、能に似ていたのだがーーーを続け、突如飛び起きて「皆さんおはようございマス!体操の時間じゃないスか!」と叫んで、また倒れ、いびきをかき始めた。

 池田さんが「あの~。トランプやりません?(笑)」と言った。菊地くんが「いいね!でも皆んなやってて、オレ撮影してるから」「それ、撮ってどうするんですか?」「なんか、フェチ商売でも思いついたか(苦笑)」。菊地くんは、「いや、学会に回す。いろいろ知りたいし」と言って、少しニヤッとした。


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