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BOSSの回想録(2)


<「菊地成孔+BOSS THE NK」②>


 読者の皆さん。私は現在、BOSS THE NKと名乗っている。菊地成孔くんとは友人関係にある。と言っても通用しなかろう。すぐには。


 早速昨日の話の続きに入る。我々は震災による、人々の多重的な被災に対するサポートを続けてきた。菊地くんはラジオを。即ち、音楽と言葉を使って。私は私なりの仕事をしてきたのだが、内容は明かせない。それは主に始末に関するジョブであって、菊地くんとはだいぶ職種が違う。


7年以上かけて、私は始末を続けてきた。あらゆる仕事を請け負うのが請負人としてのプライドであることは言うまでもない。それでも、気が重い時は気が重くなる。イラク戦争の回線と共にリリースされた「構造と力」からは14年が経っていた。


 ある時、数年ぶりで菊地くんから連絡があった。彼はガラケーだし、私も仕事の請けあいにはスマホは使わない。あんなに足がつきやすい道具を使って、人々は危険が全く伴わない、安全な行為だけで日々を過ごしている、とでも言うのだろうか。


 いずれにせよ、菊地くんは「スパンクハッピーをもう一度立ち上げることになった」と言った。彼は、07年に活動を休止したDCPRGを10年に再活動させた。それに際しては私には何の依頼もなかった。ただ、彼があの電化オーケストラを大きく動かす時、必ず世が乱れる。翌年に何があったのかは言うまでもないだろう。


 国内戦であるアルターウォーから7年が経過したある日の、その電話はかかってきた。


「○○(私の本名)、大仕事だ。スパンクハッピーを再始動させる事になった」


「今回は何をすれば良い?」


「全てだ」


「全て?」


「全て」


「ちょっと待ってくれ。なんで今更あのユニットを再始動することになったんだ?それを聞かないと、請け負うことはできないな」


「ラジオで、再始動を宣言してしまったんだ」


「それは、したくもないのに、口が滑ったという意味か?」


「違う。まあ、オレの心理的な流れは興味がないだろうから、事実だけを話すよ。番組で、過去の遺物として第2期のスパンクスの音源を流すと、リスナーの食いつきが異常に良いんだ」


「<15年早かった>バンドの、マーケットの無理解を、11年ぶりに晴らそうということか?(笑)」


「違う。マーケットの無理解を晴らそうなんてオレが考えると思うか?(笑)」


「一生、晴らしながら生きることになるな(笑)」


「そうだ(笑)」


「直観か?いつものように」


「そうだ。やるべき時が来た。この国はインターネットとSNSの完全な普及によって、鬱病患者数をやみくもに増大させ、国民に愚痴を垂れ流させて満足させることで、国民の健全な行動力を押さえ込んでいる。彼らは、愚痴り、毒を吐き続けることで、自分を動けなくしている」


「その考えは一部硬直していると思うが、続けてくれ」


「そうした世の中で、2期スパンクハッピーが、特に若年層からの食いつきが良い」


「病みだとか、みんな死ねだとか、単なる退行を、社会側に責任がある他罰的な鬱病自覚につなげるしかないからな。国民は」


「そうだ。そんな中、2期のスパンクハッピーが、病みのオールドスクーラー、メンヘラの旧約聖書のように扱われるのは、忸怩たる思いがあるね」


「判からいでもないな。汚名を晴らしたい。という訳か」


「いや、音楽がどう解釈されようと構わない。マーケットは、あらゆる皿から、好きなものだけしか食わない。ブッフェと同じだ。とあるブッフェから、オマールのグラタンばっかりが回転しても、ホテル側は汚名とは思わないだろ」


「まあ、喜ぶだろうね(笑)」



*    *    *    *    *



「ただ、2期がアティテュードとしたのは、青春の全否定だ」


「左翼性だな」


「そうだ」


「発売当時は、青春こそが国民食だった。大人が後めたいまま青春を、思春期にある者が大手を振って青春を、子供が背伸びして青春を。青春は全世代必須のコンテンツになった」


「青春を売るのは、米やデニムを売るのと変わらなかった。という訳だ」


「そうだ。そんな季節に、米もデニムも売らなかった2期がセールする訳がない。オレは、米とデニム以外の食材を磨き抜いて、どれだけ人々がくうか試してみた」


「予想より喰われたろ?(笑)」


「ああ(笑)。それで満足だった。だが」


「今は忸怩たる思いに熟成された。そうだな?」


「というか、まあ」


「番組をやっていて、健全な左翼性に火がついたか?(笑)」


「まあね(笑)。あくまでポリティカルな側面ではな」


「退行と幼児性の全否定をするのか?それとも、今こそ2期のイデオロギーを打ち出すの

か」


「あえて言えば前者だが、音楽というのはもっとでかい」


「でかい。そうだな」


「構造と力、の時のことは恩に着てるよ」


「まあ、終わったことだ。それより、今回はどうする?」


「活動の再開はオレが発表する。君はオレの変装者を擬態して、、、」


「え?」


「オレが変装している、と言う設定で、変装しているオレとして」


「すまん、わかった(笑)」


「そして、バディを探し、まずはデビューしてくれ。そこまでで受任報酬を支払う」


「了解。バディの条件は?」


「完全な素人で、かつ天才であること。ルックも歌唱力も潜在していて、特にルックは、一から作り上げられること。年齢は10代から30代まで。そして」


「そして?」


「できれば、作詞作曲と編曲と演奏が全部できることが望ましい。スキルだ。もうマネキンはいらない。というより、マネキンでは2期に戻って元の木阿弥だ。君には、大きな年齢差を超えたバディを組んでほしい。互角のバディフッドを見せたい」


「なるほど」


「あとはインスタグラムとツイッターの運営」


「活動期間中、君はどうしてる?」


「<スパンクハッピーはやってません>と言いながら、実際にやらないで(笑)、他の仕事をする。カスタマーは全員、オレがやってると思うだろ」


「何年やる?期間は」


「双方の存命中(笑)」


「成功報酬がいつもの額では済まないのはわかってるな?」


「わかってる」


「ちなみに、だが、SONYからのレーベル閉鎖勧告の件は聞いているが、問題ないな?」


「致命的ではない。としか言えないね」


「君が嫌いなSNSに手を出す理由は?私が君の擬態である事の強化か?」


「いや、君はオレじゃないんだから、SNSをやって良い。それと、君が探し出す相棒には、様々な服を着てもらう事になる。現状での最大の宣伝媒体がラジオだからな。服が見せられない。あと一つは」


「うん。あと一つは」


「番組が終了する気がする」


「ほう」


「根拠はないけどね」


「ところで、オレの今回のコードネームはどうする?」と私が問うと、彼は「後日決定してから伝える。じゃあな」といった。


 それから数時間で彼からメールが来た。そこには


「BOSS THE NK (「BOSS THE MCじゃないよ」というエクスキューズ付き)」


 と書いてあった。まあ、流石にブルーハーブのマニアからは苦情が来ないだろう。「ナル・ボスティーノ」だったらギリだが。と私は、今後おそらく、死ぬまで表向きで名乗るであろうコードネームを数秒間だけ吟味し、暗記した。


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