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BOSSの回想録(9)


 <「BOSS THE NK+OD」③>


 工場長は、彼女と二人きりにさせてくれと言い、おーい、お前、降りてこい、と彼女に言った。彼女はワイヤーアクションのワイヤーが背中についているとしか思えなかった。いつも降りているであろうルートで、10メートル弱はある高さから数秒でクルクルッ、ストン、と降りてきて、工場長に駆け寄り、タックルのようにして思いっきり抱きついた。


 工場長~。あのお兄さんは自分と一緒に歌を歌いに来たデス。パンをあげて欲しいじゃないスか。お兄さんは今日からここで働くデスね?うん、、、まあな(笑)、、、ちょっとお前、オレの部屋で話さないか?、、、あの人は、、、、、まあいい、久しぶりで2人で話そう。おーい、みんな、今日はもう上がって良いぞ。


 彼女は一瞬、怪訝な顔をしたが、満面の笑みで「お兄ちゃんの皆さん。今日も1日、お疲れ様じゃないスか~。明日また会うじゃないスか~。歌ってほしい歌があったらなんでも言ってくだサイ!」と手を振って、ぴょんぴょんその場を跳ねた。私は工場長と目を合わせ、軽く頷いてから、「じゃあね、僕はは今日は帰るよ。またね」と言って工場を後にした。彼女は私のところに走り寄って来て、「お兄さん、明日は一緒に何を歌うデスか?好きな曲の名前を言ってくれたら、インターネットで憶えておくじゃないスか!さようならじゃないスか(笑)。早く明日がこないかなー」と笑って手を振った。


 工場長にはまだ一銭も渡していないし、金額の提示も条件の提示もしていない。一緒に逃げられても、やはり気が変わったと強硬になられても、最悪、彼女が錯乱して失踪してもフォローショットはいくらでもある。ただ、彼女には、納得してもらわないといけない。今の所彼女の利益は、パンと歌うことしかない。私は、あまりの事の容易さと難しさに挟殺された。東京でレコード会社と契約する。歌が君の仕事になる。今の1万倍の人々が君の歌を聴く、パンはいくらでもやる。ただ、工場を出て貰わないといけない。帰る頻度は、保証できないけど、確約する。全てがあまりにシンプルだ。シンプルすぎる。


 工場長は「あいつを説得できたら連絡します」と言った。何日かかるだろうか?私は久しぶりの自分の寝床に戻り、疲労がまとめて襲ってこないように、内気功で呼吸を整え、4時間でスローダウンが完了するように身体に言い聞かせた。


 工場で貰ったバケットをそのまま、マグロの解体のように一文字にナイフを入れて切り開き、近所のコンビニで買った明治乳業の「十勝カマンベール」(このカマンベールは、フランスのどのカマンベールよりも旨い。恐らく、フランス人が食べても)を2箱分、均等スライスして並べ、軽く胡椒を振り、元に戻した。それからカーヴに保存しておいたドンペリニオンのヴィンテージ06を片手で抜栓し、マグカップに注いでから、まず、その筋に彼女の指紋を送り、3分間瞑想し、星の使いと言われるシャンパンを半分、バケットサンドを一本分全部食べて、残ったシャンパンをデキャンタージュしてから冷蔵庫に仕舞い、12時間眠り、菊地くんに電話をした。


 全てを聞き終えた菊地くんは、開口一番「小田さんに似てんのね?ていうか、そっくりなのね?」と言った。


 「そうだ。だが別人だ。指紋の照合を当たっているが、小田朋美さんのじゃないのは言うまでもなく、警視庁の失踪者のデータベースにも、韓国にもベトナムにも台湾にも中国にも一致するものはなかった。つまり、厳密には何人かも同定できない」


 「わかった。歌は似てるか?声というか」


 「全く同じだね」


 「ヤバいなあ(笑)。やると思う?やってくれそう?」



 すまんが、今回ばかりは全く予想、、、、と言いかけた瞬間、別のガラケーが鳴った。着信名は



 「パン(OD)」



 としてあった。工場長のガラケーの番