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BOSSの回想録(27)


<「BOSS THE NK+OD」④>



 結果としてファイナルスパンクハッピーは、現在のところ、とするが、小田さんを入れ替わりにした活動はその後一度も行っていない。そして、この回想録の中でも、小田さんは姿を消し、最終回近くのフジロック2018でのライブの間際から最終回までは登場しない(小田さんと我々が接触しなくなった。と言う意味ではない。小田さんは菊地くんの容赦ないフックアップの賜物か、激務をこなす才媛に戻り、ODと工場長とはグループラインで繋がり、菊地くんとは共に仕事をしていたが、私との関係は直接的には切れた。ワイン会食の時は、仕事がないときに限って、たまに顔を出してくださったりしていた)。


 小田さんの人生の中で、「GREAT HOLIDAY」での珍事が、ありきたりで尊いサマーオヴラヴのままになることを、私も菊地くんも祈っている。「女の子は楽しそうにはしゃいでるのが一番だよ。なんてダッセエ事ぁ言わねえよ。ただ、踊りは教養だ。人類の、一番最初のね。歌なんて、ずーっと後に来る、高級品だよ。教養主義か非教養主義か、なんて事の遥か以前に、ベーシックな教養ってのは、ないよりはあった方が良い。言葉が喋れるとか、一人で排泄できるとか、金が使えるとか、金がないと食えないとか、でも金は直接食えない、とかさ(笑)」。


 しかし、ODは意を決した。小田さんとの半同棲生活の解消を提案してきたのである。スタジオコーストから取り急ぎ戻った湾岸の倉庫で、ODは、これからここで暮らす。と言い出した。



 「ボス、、、、、今日は、、、、本当に、、、、、」


 「もう良いOD、もう謝るな。それより、突然の睡眠に注意だな。オレも気をつける。あれだろ?工場での暮らしに、おまえ決まった睡眠時間がなかったな?(笑)」


 「はい、、、、、寝るって言うのは、、、、いつ寝て、いつ起きたか、、、、わからないもんじゃないスか」


 「工場長さんや、工場の方々は、寝起きは決めてたろ?」


 「はい、、、、でも、、、、、自分だけは、、、、、気がつくと寝てて、、、、、、いつの間にか起きて、、、、、、起きるとパンを食べて、歌を歌って、歌ってるうちにまたいつの間にか寝てるじゃないスか、、、、自分が何をやっても、お兄ちゃん達はいつも働いてたじゃないスか」


 「ほとんど嬰児のナルシシズムだなそれは。見守られ方が凄すぎる(苦笑)」


 「AG?、、、、、自分はODの方が、、、、」


 「いや違う違う(笑)。こっちの話だ。まあいい。決まった時間に寝る事は出来そうか?」


 「全然わかんないじゃないスかー、、、、、でも、今日みたいなことがあったら、、、、、、、ダメダメです、、、、」


 「そうだな。まずは、寝ても起きれるようにしないと。小田さんとミーティングだな、、、ちょっと、、、」


 「ボスボス~」


 「どうした?」


 「、、、、自分、、、、、ミトモさんのお部屋を出るじゃないスか、、、、、」


 「いいかOD、今日のことは、お前一人の責任じゃない。ペナルティは要らないぞ。本当だ。もう自分を責めるのは止めろ。これは一種の命令だ。いいな」


 「違うじゃないスか、、、、、ミトモさんのお部屋にいると、、、、、好きな時間に寝放題、起き放題デス」


 「なるほど、一緒に朝食食ったりしないのか?」


 「ミトモさんはビッグコミックスペリオール蝮卍実話ナックルズ忙しいじゃないスか。だから、いつも自分が目が覚めると、いらっしゃらないデス」


 「なるほど、、、、、、わかった。そうだな。そしたらODどうする?マンションでも借りるか?」


 「あのう、、、、、ここは、、、、、工場跡ですよね?ボスのお住まいデスか?」


 「ま、、、、、あ、、、、、、な。そうだな、、、、あのう、、、、実家?って言うかな、、、、、、それは、パン工場の近くなんだが、、、、、ここは、、、、セカンドハウスわかるか?」


 「セカンドハウス?」



ODは両手で検索を始めた。



 「いやあ、あのな、ちゃんと言うとファクトリーなんだが」



ODは検索ワードを切り替えた。



 「まあいいまあいい。あのな、ここはオレの、、、、そうだな、秘密基地だ」


 「秘密基地い!やばいじゃないスか!!(笑)だからムッチャクチャ広いのに何もないじゃないスか!!!(笑)」


 「どういう把握だ(笑)。まあでも、あってるな」



 実はこの倉庫跡の名義人は菊地くんだ。菊地くんは局部的に、歯止めが効かないほどのロマンティークがあり、ジャン・ジャック=べネックスの「ディーヴァ」並びに、その影響下にある作品群の最高傑作である、岩井俊二が監督したテレビドラマ「フライドドラゴンフィッシュ」の熱烈なファンで、「オレも50になったら、あんな倉庫跡にベッドとサックスだけ置いて住みてえ~」と心に誓い続け、なんと5年前に、とうとう本物を購入し、しばらく遊ぶように住んで、私に管理を任せたままになっているのだった。


 私はここを多く隠れ家や、始末した物や、受け取った物の一時的な保管場所に使った。安全な仕事の時は、簡易ベッドや、小さな冷蔵庫を置いて仮の宿にした時もあるが、基本的に居住用には作られていない。エレヴェーターは車両用があるが、ひどく遅く不安定で、ボタンはケーブルの先にゴツイのが取り付けられている。電気、ガス、水道、トイレこそあるが、体育館ほどの広さに、冷暖房がない。オプションとしては、業務用の巨大なキッチンが4つしつらえられていたことだ。もちろん、現在は稼働していないが。今は、中央にポツンとPC、机、小型ヒーター、姿見、設置型虫除け器があるだけだ。



 「ボスボスー。これを見てくだサイ」



 私は吹き出しそうになった。



 「これ、フランス映画じゃないスか!かあっこ良いー!!このオッサンとローラーガール、ちょっとボスと自分みたいじゃないスか!!(笑)」



 それはまさしく、「ディーヴァ」の映像だった。youtubeにローラーガールフェチがアップしたのだろう。キーワードに「roller girl」「hot pants」とある。リシャール・ボーランジェ演じる、倉庫跡に住む、脇役の謎の中年男の役名はボロディッシュ、そして彼が飼っているような、雇っているような、愛しているような、支配されているような、助手のような、秘書のような、恋人のような、そして娘のような、つまりはバディもの先駆として非常に優秀な、ホットパンツ姿のローラーガール(彼女は広大な倉庫の中を、常にローラースケートを履いて移動している)、アルバはベトナム人、チュイ=アン・リューが演じている。カリスマのあるフィルムであり、今でも崇拝者は多い。



 「自分、ここに住みたいデス!!なんかパン工場も思い出すデスし!!」


 「いや無理だ。ここは居住用には出来てない」


 「菊地さんに頼んでリフォームして頂くじゃないスか!(笑)」


 「いや。それは経費になるから、、、、、そうだな、、、、、うーん、、、、結構かかるぞ、、、、、、うーん、、、、、よし」


 「住むスか!(笑)」


 「決まりだ(笑)」


 「やったー!やったー!!菊地さんにローラースケートも買って頂くじゃないスかー!!」



 私は菊地くんと小田さんに連絡した。菊地くんはODのようにウヒャウヒャ言ってハイになり、ヴィンテージのエアコンや冷蔵庫、最新型のドライヤーやベッドのメーカー名を矢継ぎ早にあげた。小田さんは、安心したような、寂しいような。つまりはよくある気分になったようだった。ODはすっかり元気になり、「ボスと住む!!ボスと住む!!ローラースケート履いて暮らすじゃないスかー!!」と、滑走の真似をしていた。時計を見る。今頃、DC/PRGのアンコールにOMSBが登場し、スタジオコーストが騒然としている頃だ。


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