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BOSSの回想録(11)

 <「菊地成孔+BOSS THE NK+OD+小田朋美」②>

 「小田さんすいません、シャンパングラスじゃなくて良いんで、グラスを4つお借りできますか?」


 バラバラのグラスにルイ・ロデレールがロシア皇帝に献上したシャンパンが注がれ、菊地くんが「OD、乾杯の音頭をとってくれ」と言うと、ODが「音頭っスか?、、、音頭?」と目を丸くした。私は「いや、歌わなくて良い。お前、乾杯したことあるだろ?」と言うと、ODは「毎晩してたじゃないスか!(笑)」と言って、楽しそうに  

「今日も一日お疲れさんデス!!かんぱーい!!」

 と言って、同じ顔をした二組がグラスを当てあった。ODだけが一気に飲み干して「プハーすんげえ旨いじゃないスか!!」と言った。パン工場の兄たちを真似ているのだ。  数分間、誰も話し出さなかった。菊地くんはニヤニヤし、小田さんは戦慄し、ODは無邪気にはしゃいで、私は様子を見ていた。いくらでもこの状態が続きそうだ。見兼ねた小田さんが、電子タバコを吸いながら

 「音楽でも、、、、かけましょうか、、」

 と言って、ラフマニノフのピアノ曲を流した。情動奔流の音響化であり、典型的なヒステリアとも言える、非常に複雑で美しい作品である。全員がしばらく音を浴びて、菊地くんは


 「ラフマニノフやべえな。ちょっと失礼。トイレお借りします」と、トイレに行った。気がつくとODは、ソファで仰向けに、口を開けて寝ていた。  「小田さん、今回は巻き込んでしまってすみません」

 「ええと、、、、あなたは菊地さん?、、、あれ?どっち?」

 「違います。菊地くんは(指差して)トイレで」

 「あの、すいません。あなたが<菊地くん>っていうの止めてもらえますか?すごく変な感じなんで(苦笑)」

 「わかりました(苦笑)。じゃあ、なんと言えば?」「彼、とか、あの人、とか」

 「了解です。私は、彼ではありません。あの人は今(指差して)トイレで」

 「どう言っても変な感じですね(笑)」

 「ああ小田さん、トイレお借りしました。あのー、手を洗うのに、勝手にハンドソープ使っちゃいました。ごめんなさい」

 「いやハンドソープは良いんで、それよりあの、お二人であたしの両脇に立つの止めてください。すごく気持ち悪い(笑)」

 「失礼」

 「失礼(笑)」

 「じゃあ、どうすれば?」

 「じゃあ、、、、どうすれば?(笑)」


 しばらく黙って、小田さんも残りのシャンパンをあおった。


*    *    *    *    *



 「そうか、ODっていうのか。初めまして。良い名前だな。旨そうだな~そのメロンパン(笑)ちょっとオレにもくんない?(笑)」  「うわー。凄いデスね。ボスが2人、、、、お二人はご兄弟デスね。双子というのを知ってるデスよ。ネットで見たじゃないスか~」  「OD、オレと彼は別人だ」

 「またまた~(笑)。ウソじゃないスか~(笑)。菊地さんはボスのお兄さんスか?弟さんスか?」


ODは後に、極端に発達した情報処理能力で、私と菊地くんを「ぜんぜん似てない」と知覚するに至るのだが、最初は常人と同じ反応だった。


 「いやあ、本当に別人なんだよOD。それにな、来週、君とそっくりな女の子と会わせる、、、、、、この人だほら」  「これは自分の写真じゃないスか(笑)」