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BOSSの回想録(26)


<「最終スパンクハッピー+菊地成孔+小田朋美」③>



 後日菊地くんから聞いたのだが、小田さんがあれほどきゃっきゃ言ってはしゃぐのは極めて珍しいらしい。楽屋までの通路で何度もハイタッチを求め、バレリーナのようにターンして


 「ボスさん!羽根!羽根!凄い!ほら!こうやって回るとフワってなるの!!」


 「パンツ見えてましたよ(笑)」


 「良いですよパンツぐらい!!(笑)あー、ニーハイソックスって初めて履いたけど、履くと逆に大胆になりますね!!」


 「大胆って、<シャーマン狩り>のジャケットのが遥かに大胆でしょう(笑)」


 「あれは女性カメラマンさんと菊地さんしかいなかったから。今日はお客さんの前だったじゃないですか!(笑)」


 「でも、菊地くんいたんでしょう(笑)」


 「はっ!今考えるとそうですね(笑)」


 「だから菊地くんは、ODの体型と小田さんの体型が同じだって自信を持ったんですよ(笑)」


 「ええっ!!ODも裸になったんですか?」


 「なりましたね(笑)」


 「早くないですか!!」


 「そこじゃないでしょ(笑)」


 「いや、そこですよ!誰が脱げって、、、、まさか、、、ボスさん?菊地さんですよねっ!!!」


 「いや、着替えろって言ったら、いきなりその場でマッパになったんですよ(笑)」


 「そうか、それはODらしいですね(笑)」


 「まあ、何はともあれ、非常に助かりました。お疲れ様でした」


 「ええ~。もう終わりなのか、楽しかったなあ(笑)。ボスさん、今度あたしの部屋で一緒にエアライブやりませんか?(笑)」


 「ワイングラス割っちゃいますよ(笑)。っていうか、ODが黙っちゃいないでしょう(笑)」


 「良いじゃないですか3人でやれば!(笑)3人のが良くないですか?女子が双子で(笑)」


 「それダメですよ(笑)。菊地くんの香港の話ですよ(笑)」


 「ええ?なにそれ?」


 「何でもないです(笑)」



 今でも菊地くんのブロマガ「ビュロー菊地チャンネル」に、全編がアップされている「GREAT HOLIDAY」に於ける<ファイナル・スパンクハッピーのデビューライブ>は、門前の小僧が習わぬ経を読んで、とまでは言わないが、チェックのために全ての楽曲を聴いていて、振り付けのリハーサルを何度か見ているだけ、という状態の小田朋美さんが急場凌ぎでやったものだ。楽曲は「アンニュイ・エレクトリーク」「夏の天才」「ヒコーキ」の3曲のみ。MCの打ち合わせは全くしていない。


 「OD泣いちゃったかな(苦笑)」


 「とにかく傷つけないようにしましょう」


 「そうですね、、、、、(楽屋のドアを開けて)OD?起きた?(笑)」



 私も菊地くんも少々意外だったのだが、ODは泣いたりわめいたりせず、スイッチが切れたオモチャのようになってしまっていた。目は半開きになり、猫背になって、声量も口数も平均の5分の1ほどまで落ちた。菊地くんが隣に座り、ODの頭の上にパンを5個のせて、6個目を乗せようと慎重な表情になっていた。


 「OD、、、、」


 「ボス、ミトモさん、菊地さん、、、ごめんなさいじゃないスか、、、、」


 「OD、気にするな(笑)」


 「、、、、、、、、、」


 「そうだよ。気にしないで(笑)」


 「、、、、、、、、、、、、、、、、、」


 「落ちない、、、、落ちないぞパンが、、、、5個も積んでいるというのに!!微動だにしていない証拠だ、、、、見ろみんな。ODもだ、、、、いや見るな!顔を上げたらパンが落ちる!じっとしてろ!」


 「ハイ、、、、、、」


 「OD、本当に気にするなよ。誰も迷惑は被ってない。小田さんも楽しんだし、客も喜んだ。次はいよいよお前の出番だ」


 「ボス、、、、、本当に、、、、、すんませんでしたじゃないスか、、、、自分は、、、、、、」


 「OD、寝ちゃったんだからしょうがないよ(笑)。あたし、凄く楽しかった。ありがとうOD。また寝てもいいよ~(笑)」


 「いや。良くない。今度寝たら工場に帰す」


 「菊地くん、、、、、」


 「OD、聞け。聞こえてるか?」


 「ハイ、、、、」


 「お前はプロなんだ。本番の前、それと本番中には、寝てはいけない。絶対に。復唱しろ。本番前と、本番中には、絶対に寝てはいけない」


 「、、、、本番前、、、、と、、、、、本番中、、、は、、、絶対に、、、、寝ては、、、、いけない、、、じゃないスか、、、、、」


 「そうだ。金を取るんだからな。いいか今日のギャラは小田さんにお支払いする」


 「いや!いいです!あたし要らないです!」


 「いや、それはダメです。受け取っていただきます!!」


 「受け取ってください」


 「いや本当に!!ODにパンを買ってあげてください!!」


 「いやダメでしょ寝ててパン貰えたら(笑)。あらゆる原理に背くよそれは(笑)。それよりボス、急いでくれ。もう危ない」


 「わかった。小田さん。我々は全員出ますんで、急いで着替えて、そのまま会場に行ってください。衣装は脱ぎっぱで良いです」


 「は、、、、はい、、、、、ねえOD、、、、本当に、、、、落ち込んじゃダメよ、、、落ち込んだらねえ、、、、ああもう」



 菊地くんは手品師のように凄い速さでODの頭の上のパンをひとつづつ鞄に移し、最後の一個をODの口に押し込んだ。私はぐったりして動けなくなっているODの肩を抱いて、酔っ払いを介抱している客のふりをしながらコンテナ楽屋から出た。菊地くんはやや忌々しそうな表情で会場に向かった。


 私が「何だよオマエもう、これからけものが始まるって言うのによお。潰れちゃってよお。しかもアンパンくわえてなにやってんだよもう。吐きそうか?吐くか?そうか、じゃああっちの隅で吐け。アンパン口から出せよー」と大声で言うと、背後から菊地くんの声が聞こえた「いやいやいや、そんな、、、、恐縮です。ありがとうございます。まあ、小田さんがねえ忙しくて、あんまリハできなかったんで、、、、そう、、、、MCの打ち合わせなんか実は全然してなくてですねえ、はははははははは」。私は思わず笑ってしまった。それは全く、完全にその通りだからだ。


 余りに落ち込んで、軽く薄笑いのような表情になってしまっているODの口にパンを更に押し込んで、私は酔っ払いを介抱する態で歩き続け、中古ベンツの3メートル前からは、ODを荷物のように横抱えにして、小走りで車中に飛び乗って、まずODのパンを吐き出させた。



 「OD、行くぞ」


 「ボス、、、、、、、すんません、、、じゃない、、、、、、スか、、、」



 私は自分だけ着替え、ODには帽子とサングラスとマスクだけさせて、2人分のシートベルトを装着し、慌てて左手だけドライバーグラブをして車を発進させた。絶対に顔を見られてはいけない。